本堂建立記録

   
 平成26年3月に、東日本大震災による屋根裏床下等の未調査部分の被害もふまえ、ご本堂全体の現状調査を実施いたしました。国の発表に基づき東海大震災・東南海・南海連動型地震に備え、また瓦も寿命をむかえておりますので、当初は修繕改修及び耐震施工を行う予定でございました。大手建設会社二社に調査を依頼したところ、被災部分も多数発見されましたが、それどころか耐震施工を施しても十分ではなく、その後五十年から六十年で建替えを余儀なくされる可能性があり、今後予想される大地震での倒壊の恐れさえも指摘される結果が出されました。ご本尊様をお守り頂くためにも、また当山にご法要・参拝・墓参等のためにご来寺される檀信徒の皆様の安全の確保のためにも、役員会に於いて厳粛に審議した結果、ご本堂を建替えることと決定いたしました。
 
 
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瓦葺き工事 9月 軒丸瓦
 9月17日の読売新聞の記事に、当山に使われる軒丸瓦(のきまるがわら)に似た写真が目に留まりました。軒丸瓦は平葺きに対し、本葺きの屋根にのみ使われる丸瓦(平瓦の間に入り、縦の筒形のラインを作る瓦)の軒先を飾る瓦です。その紋様は様々あり、新聞記事のような蓮弁のまわりに数珠を掛けている紋様は、奈良時代に広く使われた紋様で、その後、鎌倉・室町時代になると三つ巴の巴紋がよく使われたそうです。
当山はご本堂の彫刻や飾り金物などのイメージに合い、屋根の曲線があっても紋様が揃って見えるように蓮弁を選びましたが、中村先生のお勧めで「蓮弁数珠掛け」の大変凝った現在では大変珍しい紋様に決まりました。あえて新聞記事を偶然に目にして、この紋様について調べてみましたが、軒丸瓦にも歴史と伝統がある事を知り、とても感激いたしました。
 
瓦葺き工事 9月
 9月になってもまだまだ炎天下の空の下、瓦屋さんは毎日朝早くから夕方まで屋根の上で作業をしています。浅木が縦横ときれいに張られ、この日は大きなクレーン車で屋根に葺くための、瓦を上げる作業が行われました。
 大窪瓦店さんは、約1万5千枚の瓦を一枚一枚、重量配分や、比率、焼き上げられた瓦の反りやねじれなどのくせを計測し、どこに配置するか全ての瓦に番号をつけて、選別しながら作業をしていきます。「完全乾燥漆喰工法」なので、さらに漆喰を使い調整しながら葺き上げていくので大変時間がかかります。ただ瓦を並べるのではなく、きれいな曲線を出すための大切な作業だとおっしゃっていました。
 
飾り金物②
2016-09-14
二階にある工房で、銅板に絵柄が見事に打ち上げられ立体的に浮かび上がると、3階の工房に持ち込まれます。3階に上がってみると、静かに一人で箔(はく)を打つ(金箔を施す)職人さんがいらっしゃいました。金箔を張る前には先ず漆を塗ります。塗る漆も粘り気があるもの、あまり無いものと色々あるそうで、その日の気温や湿度の違いによって配合を変えているそうです。張る金箔にも色があり、赤みがかかった色や、明るい色などがあるそうです。土屋工芸様は明るい純金の金箔を使っているそうです。金箔は以前、石川県の助政建設様を視察する際に途中で見学した金沢のものが使用されているそうです。大変薄く、実際に手の平に載せて頂きましたが、見る見るうちに指紋が浮き上がって来ました。この箔を一枚一枚丁寧に漆を塗った銅板の上に敷き、筆で優しく撫で上げると綺麗に箔が施されて行きます。何枚も重ねているように見えましたが、実際は一枚の箔だけが隙間なく残るそうで、見事に打ち上げられて行きました。
飾り金物は屋根に使われるもの以外にも色々な形、用途がたくさんあり、明治神宮に使われる菊の御紋金物なども見せて頂きました。そして当山で使われる釘隠しという飾り金物を選ぶために見せて頂きました。釘隠しとは昔から長押(なげし)や扉に打った釘の頭を隠すために用いられる金属の飾りです。形は様々で壁一面に飾ってありました。お勧めは、写真右の左側は6片の葉の形をした「六葉」(ろくよう)、右側は4片の葉の形をした「四葉」(しよう)の模様があり四葉は京都でよく使われる金物だそうです。六葉はよく見ると葉のつなぎ目が6つの線になり「水」という字の形を表しています。火災除けとしての意味が込められていて、上棟式の三器奉酋之儀(上棟式の頁参照)や水神として祀られる龍の彫刻や青銅と共に木造建築の火災に対する当時の人々の様相が伺えます。当山はご本堂全体のイメージに合う六葉の形に決定致しました。こちらでは、社長様の道具と仕事台で実際にその難しさを体験させて頂く事が出来ました。職人の方々の真面目で真剣な仕事ぶりや、熟練の技術を見ることが出来、日本の伝統技術の価値の高さを確認することが出来ました。現在は伝統的な木造の佛教建築で建てられる寺院は、様々な理由で全国的にも大変少なくなってしまいました。たくさんの職人の方々の伝統技術に支えられ、ご本堂が建立されることが如何に素晴らしく価値があるか感じずにはいられません。これからまた伝統的な仏教建築が見直されていく時代が来るのを願うばかりであり、それが素晴らしい伝統技術を残すことに繫がるのではないでしょうか?
 
 
飾り金物①
2016-09-14
お神輿(みこし)の飾りや神社・お寺の屋根の飾り金物を制作している、東京浅草に創業200年に渡り工房を構える渡土屋金属工芸様へ視察に行って参りました。当山の本堂の屋根の妻(ご本堂を横から見て屋根の合わさった部分)等に飾られる飾り金物(銅板に唐草模様等が施され金箔が打たれた物)のデザインは全てオリジナルで、設計士の中村先生が原画を描いております。写真左はデザインの原画を銅板に写しているところです。そして下絵がついた銅板を職人さんが手作業で金槌(かなづち)と鏨(たがね)でリズムよく打って紋様を浮き上がらせます。社長の土屋様が言うには「中村先生が描く絵は大変素晴らしく、凝っているため普通の工程の3倍の手間がかかります」とおっしゃっていました。花や唐草の紋様は立体的に打ち出すため原画だけでは分からず、中村先生との綿密な打ち合わせをするそうです。また、その隙間を埋める細かい紋様は大変根気のいる作業で共に熟練を必要とします。写真右はご本堂の真後ろの屋根の破風(はふ)の部分の飾り金物です。当山の飾り金物は、大きな紋様の隙間に墨を入れる「墨入れ」はしませんが、大変凝った作品なので、一目で違いに気付いて頂けると思います。土屋社長様も「今、これだけの絵が描ける方は、もう殆どいらっしゃらない」とおっしゃっておられました。ご本堂は、全体の形(屋根のラインや瓦の葺き上がり)がとても大切であり、飾り金物は、鬼瓦や妻の彫刻と共に屋根の重要な装飾の一部になります。遠くからでも大変目立つため、見る方に興味をそそり、近くで見てみたいと思わせる効果もあり、ご本堂全体のイメージに大変影響を与えます。屋根が葺きあがると施工される予定ですので、ご期待頂ければ幸いに存じます。
 
瓦葺き工事 8月
連日の猛暑の中、瓦屋さんは屋根の上で黙々と作業をしています。屋根には縦浅木・横浅木が等間隔で美しく施工されました。以前の本堂は下地に土を使い瓦をのせていましたが現在は土は使わないそうで、シックイ工法により雨水の浸入を防ぎます。屋根全体の重さは、従来の工法の約三分の一の重さになるそうです。しかし軽くなると言っても福寿院に使う瓦屋根の重さはどれ位なのか、瓦屋さんに伺ってみました。
瓦1枚の重量は約4㎏、使用する枚数は14,600枚、シックイの重さは6t375㎏、下地に使用する材木は1,020本で1本当り3㎏ すべての資材を合計すると屋根の総重量は何と67t835㎏だそうです。当山のご本堂の柱は、一尺の太さの丸柱を20本以上使用し、屋根の構造は伝統的な和小屋造りであり、桔木には強度の高い松の野地丸太が40本以上使用されているため、この3倍以上の重さでも十分に耐え受けます。
 (写真中)は丸瓦と平瓦を組にしたものです。平瓦を浅木にはめ込み、すき間に丸瓦をつけ動かないようにするそうです。
そして瓦屋さんに瓦葺きで難しい所、そして大事にしている事はどんなことですかと質問してみました。
「瓦の葺き方で屋根の曲線に違いがでるので、美しい曲線を出すように心がけ、100年後に葺き直すまで葺き続く屋根に魂を込めて作業をしている。」とおっしゃっていました。瓦葺きは炎天下の中、9月下旬までかかります。
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